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サッカーあれこれ -岡目八目- vol.11
シミュレーション
・・・ブラッターの怒り・・・
2013年12月5日、UEFAのプラティニ会長がスペイン紙に対し、興味深い発言をしました。
イエローカードの制度を廃止し、ラグビーのシン・ビン制(注-1)を導入するという提案でした。
「警告のシステムを変えたい。ラグビーのように、ファウルを犯した選手が10分から15分ほど一時退場となる形がよいと思う。そうすれば、対戦相手はその試合中にアドバンテージを得るし、別の対戦相手との試合で累積警告により出場停止ということがなくなる。まだ構想段階にすぎないが、競技の利益となるかどうか、今後検討していく必要がある」との内容です。
確かにイエローカードを1枚もらっても、相手チームには目に見えて得するものはないですね。プラティニの発言が実現すれば、現在のサッカーに大きな変化をもたらす画期的なものです。
しかし、この提案についてFIFAのブラッター会長は「レギュレーションがすべて確立されているというのに、なぜシステムを変更しなくてはならないのか理解できない」と反論しました。この話はこれで終わりかと思われました。
2014年、ワールドカップ・イヤーが始まったばかりの1月3日、「FIFAウイークリー」でブラッター会長のコメントが公表されました。最近、(特にイングランドのプレミアリーグで)問題となっているシミュレーションに関しての苦言でした。マンチェスター・ユナイテッドのアドナン・ヤヌザイやアシュリー・ヤング、リバプールのルイス・スアレス、チェルシーのオスカルなど、今季になってシミュレーションで話題になる選手が相次いでいました。
ブラッター会長はコメントで「だますことをやめるのは、対戦相手とファンに対する敬意であり、さらにはプロとして、模範としての自分への敬意でもある。ほかのスポーツでは軽蔑されるが、最近のサッカーでは普通のことになり、受け入れられてしまっている。信じられないほどにアンフェアであり、映像で見ればバカげたものであるにもかかわらず、ずる賢いとか、ひどければささいなことだと考える人もいる。これは、PKをもらうためにペナルティーエリア内で大げさなダイブをすることも含まれる。私は非常に苛立つんだ。特に、半分死んだ(かに見える)選手が、ピッチを離れてすぐに生き返るのを見るとね。タッチラインには、医療専門家ですら説明できない再生力を持っているかのようだ」と述べています。
日本人には真似できない、ウイットのきいた上手い表現でシミュレーションをする選手を皮肉っていますね。確かにJリーグの試合でも、このようなシーンを見かけることが増えているのではないでしょうか?
最近のシミュレーションについての発言を、いくつか拾ってみましょう。
①2013年10月6日、チェルシーのモウリーニョ監督がシミュレーションについて語ったことを『GOAL』が伝えています。
「私はダイブが大嫌いだ。私のチームの選手たちは、ダイブをすれば私との間で大きな問題を抱えることになると分かっている。非常に良くないことだ。相手選手にレッドカードを出させようとするのは、私にとっては恥ずべきことだ。自分のチームの選手が正しくない行動を取ったおかげで勝てたと感じるような試合がいつかあったとすれば、私はその選手を強く批判するだろう」
何かと問題発言の多いモウリーニョ監督ですが、この件についてはとてもまともな見解を持っているようですね。さらに続けています。
「サッカー界の上層部が何とかしなければならない。私は何者でもない。ただ意見を述べているだけだ。何も対処されなければ、来週にはまた同じことをする選手がいるだろう。ボルシア・ドルトムントのユルゲン・クロップ監督は主審だか第四審判だかと話をして2試合の処分を受けた。だがネイマールは? バロテッリは? 優先順位の問題だ。勝つか負けるかの問題ではなく、文化を維持するのか、文化が変化するのを許すのかの問題だ。私はダイブをした選手を外したことはないが、いつも強く批判的な姿勢を取ってきた。(ディディエ・)ドログバや(アリエン・)ロッベンとも過去に話をした」
実に優等生的・紳士的な姿勢を感じます。
②2013年10月8日付の『GOAL』では、このように記載されています。
「かつてバルセロナに在籍した元ブラジル代表DFエジミウソン氏が、同クラブFWネイマールのダイビングについて言及している。『ネイマールはブラジルでダイブを繰り返していた。まだ、ブラジルでの癖が残っているのだろう。だけど、そのようなプレーの大半は、DFのタックルが遅れることで起こるんだ。ネイマールはいつも打撃を加えられている。だからDFと対立するんだ。モウリーニョの言葉について、質問されることは分かっていた。彼は(FWリオネル・)メッシもテアトロ(芝居、演劇)を行うと言っていたね。ただネイマールやメッシは選手としては小さく、DFはマークを外した時にファウルで止めようと試みるんだ』」
小柄な選手にとって、故意ではなく、ダイブをすることもやむを得ない状況というのもあるのかもしれません。
③2013年12月29日のプレミアリーグ第19節チェルシー対リバプール戦後、モウリーニョ監督はリバプールのL・スアレスのダイブ癖について語っています。
「アスピリクエタがボールを奪い去り、L・スアレスはプールにアクロバットな飛び込みをした。(主審のハワード・)ウェブは10メートルほどしか離れていなかった。彼の唯一のミスは、イエローカードを出さなかったことだ」
これに対し、リバプールのロジャース監督は次のように反論しています。
「試合を見ていた人なら誰でも、ダイブではなかったと言うだろう。ルイスは簡単にターゲットにされていないかい? 私は、ボールに行っていない選手のプレーに対する正当なPKの主張だったと思う。アクロバティックなダイブじゃなかったことは確かだ。誰もが最終決定を見ることができる。そこに深く首を突っ込みたくはない。試合は終わったんだ。今はもう、そこから何も得ることはない」
さらにブラッター会長は、このようなシミュレーションに対するペナルティーとして、一ヶ月前には否定的だった、ラグビーにおけるシン・ビン制の導入も選択肢の一つとして考えているようです。
「この件に関する指示は明確だ。選手がピッチに倒れても、相手チームはボールを外に出すことを要求されない。介入すべきは、主審が深刻なケガだと考えた場合のみだ。倒れていた選手が、ピッチを離れてすぐにプレーに戻ろうとしたら、主審は数的不利が試合に影響するまで、その選手を待たせることができる。実質的には、これは一時的なペナルティーとなる。それにより、シミュレーションをする選手たちが考え直すかもしれない」
ブラッター会長がこの一ヶ月で、なぜ考えを一転させたのかは不明です。シミュレーションは無罪の相手に罪を押し付けるわけであり、人間として道義的にも許されないことです。シン・ビン制はともあれ、これから具体的な対策が考案されるならば、このような背景の中でのブラッター会長の発言は、現代サッカーの一つの汚点とも思えるシミュレーション問題に一石を投じたのではないでしょうか? プラティニ会長の提案も無駄にはならなかったようです。続報を期待して待ちたいものです。
(注-1)「シン・ビン制」 : 《罪の箱の意》ラグビーで、反則や危険行為を行った選手に課せられる10分間の一時的退出。1試合に二度受けると退場処分になる。日本では平成8年(1996)から採用。
2014.1.13
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サッカーあれこれ -岡目八目- vol.10
『人間的なサッカーの再建』
2013年12月9日付けのインテルのホームページで、ちょっといい話を見つけました。
かいつまんでご紹介いたします。
イタリアはローマのモンテチトーリオ宮殿で9日、「人間的なサッカーの再建を目指して・暴力に対抗」というテーマの会議がありました。議会保安委員のステーファノ・ダンブルオーゾ、州事務大臣のグラツィアーノ・デルリーオ、国家警察副司令官アレッサンドロ・マランゴーニ、文化・科学・教育委員会のアントニオ・パルミエーリ、さらには「コリエーレ・デッロ・スポルト」紙の編集長ステーファノ・バリジェッリの各氏が参加したとのことです。私は誰も知らないのですが、イタリアでは著名な方々のようです。
インテルからはマッシモ・モラッテイ名誉会長とキャプテンのハビエル・サネッティが出席しています。
急いでこの会議の記事が他にも無いかネット上で探したのですが、残念ながら見つかりませんでした。会議の全体が見えにくく、インテルからの二名の出席者に偏った内容ではありますが、それでも現在のサッカーをやる者・見る者にとっては考えさせられるいい話です。
まず、試合の勝敗とは関係なくハードワークする(一生懸命プレーする)意識の重要性を聞かれ、サネッティはこう応えています。
「僕の場合、ハードワークを重視するという考えは両親の手本を見ながら身に付いたのです。左官の仕事をやっていた父と、他界した母は子供の僕らにちゃんとした生活を保証するためにすごく献身して働き続けたのです。毎朝6時に起きて夜6時に帰宅する姿を見続けた僕は、様々なことを学びました。当時のことはその後、サッカー選手としてだけでなく、ひとりの人間としての僕の日常生活で大いに生き続けているのです。試合に勝っても負けても、一番の薬はハードワークなのです。
暴力問題はその国の文化や環境、教育システムから来るものだと思っています。僕らはみんなで力を合わせて、サッカーという素晴らしいものをぶち壊そうとしている人たちに対抗していくべきだと思います」
何とも味わい深い言葉ではないでしょうか? その国の文化や環境、教育システムは我々国民一人一人が作っているものです。皆が自分のこととして、もう一度考えてみる必要があるのではないてしょうか。
会議の席上、サネッティの伝記“Giocare da uomo/人間らしいプレー”が紹介されたようです。
この本は今年の10月14日にイタリア国内で販売開始されていますが、日本語版はまだ発売されていないようです。発売されたら即、読んでみようと思います。
モラッテイ名誉会長の談話も紹介されています。
「ファンをリスペクトしながらも、クラブとして勇気を持つことが大事です。例えば人種差別問題に対しても、できる限りの手段を使って戦っていくことが必要です。なお、ハビエル(・サネッティ)のチャリティー財団やインテルチャンネルのような組織の活動を通じて効果を狙うことも重要です。サッカーは誰もが注目するものですから、そのサッカーを通じていろいろと進めていくことが大事ですね」
余談ですが、インテルは今年5月末からその買収について報道されていましたが、11月15日の株主総会において正式にインドネシアの実業家エリック・トヒル氏が新しいオーナーで会長に就任しました。長年に渡りインテルとイタリアサッカーに貢献し、12月2日にイタリアサッカー殿堂入りのセレモニーが行われたマッシモ・モラッテイ氏は名誉会長という肩書きでインテルに残っています。岡目八目の6回目でも触れましたが、モラッテイ一族の財源が底をつき財政再建・チーム再建のため、リッチなアジア人が新オーナーになりました。チームの正式名称「インテルナツィオナーレ・ミラノ」の文字通りのチームになってしまいました。
好調を維持していたインテルがここ3試合ドローの結果に終わっていますが、この辺のチーム事情が選手の心理状態に少なからず影響を及ぼしていることも考えられますね。
2013.12.13
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サッカーあれこれ -岡目八目- vol.9
海外で活躍する日本人選手
この夏の猛暑も何とか乗り切ることができました。
このコラムもしばらく空白期間ができてしまいましたが、また少し書いてみようと思います。
近年では海外のクラブチームに所属する選手が飛躍的に増加しました。
ザック・ジャパンでも多くの試合で「海外組」が過半数を超え、主力となっています。
ドイツでは日本人同士の対決シーンも珍しくなくなりました。
1977年に奥寺康彦氏がプロ第1号としてドイツの1.FCケルンに入団した頃とは隔世の感があります。
あるとき、ふと「どのくらいの日本人が海外でプレーしているのだろう?」と思い、頭の中で数えてみました。
長友・香川・本田・川嶋・長谷部・細貝・・・・と数えても、記憶の中では30人に届きませんでした。
サッカー好きの友人・知人に尋ねても、やはり20人前後しかわかりません。
しばらくは勝手に「そのくらいだろう」と決めつけていました。
ところがある日、偶然にインターネットでそのものズバリのタイトルで
「日本国外のリーグに所属する日本人サッカー選手一覧」(Wikipedia)というHPを発見したのです。
頻繁に更新されているようですが、ここではヨーロッパの夏の移籍市場が終わって一段落した9月13日のデータでお話いたします。
開いてみて驚愕の事実を知りました。と同時に、自分の認識の甘さにも恥じ入りました。
「20人とか30人」とは桁が違いました。
19ページに渡り、現在所属している選手の名前がズラーッと並んでいます。暇に任せて数えてみると「246人」もいました。
内、女子が10人です。無知とは実に恐ろしいものです。
エリア別に見るとアジアが最も多く、116人(女子は0)。
シンガポールは「アルビレックス新潟シンガポール」があるせいもあり25人もいます。
しかしタイにはもっと多い37人。オーストラリアに15人。インドに12人。ミャンマー、モンゴル、ウズベキスタンにまでいました。
驚くばかりです。
次いで多いのがヨーロッパの109人(内、女子9人)です。
ドイツだけでも45人(内、女子6人)です。モンテネグロに7人、セルビアに2人、リトアニアにも1人。
南米が意外に少なく7人(女子は0)です。
オセアニアには6人で、すべてニュージーランドです。
北中米にも8人いました。
アフリカは現在0ですが、過去にはウガンダ・カメルーン・ザンビアにいました。
このデータを見て気づくことは、当然ながらほとんどの選手は無名であることです。
Jリーグにも入らず(入れず?)海外の無名のチームでプレーする選手が大半です。
海外で成功したのは、我々がよく耳にする極一部の選手だけのようです。
同HPで「過去に所属した選手」を見ると、かつてはJリーグや代表で活躍したにもかかわらず、
海外に出てダメになって帰国した選手の名も散見されます。
選手それぞれに、色々な思いがあって海外に出るのでしょうが、大きなリスクも抱えているのですね。
海外でも評価されるのは難しいことですが、それだけに成功した選手達の偉大さもわかります。
これからも日本サッカーを世界中に広めてもらいたいものです。
※「日本国外のリーグに所属する日本人サッカー選手一覧」のURLを下記に付けます。
興味のある方、詳しく知りたい方はクリックしてご覧ください。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E5%9B%BD%E5%A4%96%E3%81%AE%E3%83
%AA%E3%83%BC%E3%82%B0%E3%81%AB%E6%89%80%E5%B1%9E%E3%81%99%E3%82%8B%E6
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2013.9.21
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サッカーあれこれ -岡目八目- vol.8
異業種交流会のすゝめ
~サッカーの審判とラグビーの審判~
最近では「異業種交流会」と言えば婚活のイベント、
昔風に言うなら「集団お見合い」のことを指すことが多いようです。
人生において婚活も重要だと思います。
以前は(今もあるのでしょうが)様々な業種の人達が集まり、
お互いに無いものを補完しあう有用性の高い情報交換の場でもありました。
例えば、同じ製造業でも現場での一品生産が主の建設業と、
工場での大量生産が基本の自動車・家電産業では
「生産の効率化」を考える時でも発想の原点・出発点は大きく異なります。
世界が変われば物の見方・アプローチの仕方・
発想も変わることに気づき難いものです。
どうしても自分のいる世界・業界の「常識」に囚われるからでしょう。
自分と異なる業種の人と会話することで、今までとは違う考え方やアイデアとかヒントを得られやすくなります。
さて、昨年暮れのとある忘年会でのことです。
ラグビーに造詣の深いS氏と話していました。
面白いことに長友の話をしていても、
私は「サッカーの長友佑都」、S氏は「ラグビーの長友泰憲」について語ります。
途中でどうも話が噛み合わなくなり、
お互い違う長友のことについて論じていることに気づく始末でした。
そんなS氏からとても興味深い発言がありました。
「サッカーとラグビーの審判は違う」というものです。
違う競技ですからレフェリングの方法も異なるのは当然ですが、
S氏の言う相違点はそうではなく「試合における審判のスタンスとか、
選手との関わり方」のようでした。
それまでさほど熱心にラグビーを見たことのない私にとっては、
何がどう違うのか判然としないまま帰宅しました。
忘年会から数日後に始まった花園での高校選手権、トップリーグのプレイオフ、
日本選手権などラグビーの試合を10試合程テレビ観戦してみました。
なるほど、サッカーや野球の審判とは何かが違っていることに気づきます。
最初、解説者の声だと思っていたのは、
実は審判が選手に話しかけている声がテレビを通して聞こえていました。
ヘッド・セット・マイクはサッカーの大きな大会等でも使いますが、
あくまで審判間の連絡手段です。
大相撲やプロ野球でもトラブルがあった時、
審判長や責任審判員(主審)が場内マイクで説明するくらいです。
多くのスポーツでは、審判は身振り・手振りのゼスチャーだけで試合を進めています。
NFL等のアメフトの試合で審判が言葉とゼスチャーで「どちらに何の反則があり、
どのようなペナルティが課せられるか」を説明しているのが、多少類似性があるのでしょうか?
それも英語だとこちらはよくわかりませんし、選手との会話までは聞こえていないようです。
まずここが素人でも判る大きな違いのように見えました。
そこで『岡目八目-4 「なでしこ」の活躍と今後の課題』でもご協力頂き、
ラグビーのスタジアム観戦も数多くしている伊藤義人氏に再度ご協力いただくことにいたしました。
氏によれば、ラグビーの主審の特徴的なところは
① 選手と一緒になって、積極的に試合を創っている
② 反則を取り締まるだけでなく、反則を犯さないように試合をリードしている
③ 負けているチームを奮い立たせる
ことのようです。
②については、サッカーの主審も選手を落ち着かせるような身振りをしているところを見かけます。
当協会の高田静夫氏の著書「できる男は空気が読める」や、
岡田正義氏の「ジャッジをくだす瞬間」の中でも、
興奮した選手を落ち着かせるため言葉をかけるなどの工夫をされていることが書かれています。
身体の接触がより多いラグビーでは益々重要な要素なのかもしれませんね。
さらに、几帳面な伊藤氏がメモしたマイクを通した審判の言葉で、
ラグビーの審判のニュアンスが伝わってきます。
・フェアプレーで怪我の無い、いい試合をやろう
・スクラムをしっかり組む。落とすのはダメ。危険
・キャプテン、ラフプレーが多い。選手を落ち着かせて
・○○君、オフサイドの位置にいます。下がって
・××君、次にラフプレーをしたら退場にします
・タックルされたらボールを離せ、離せ
・レイトタックルは危ない。ダメだよ。よく見て
・△△大、まだ時間あるよ。この調子で点取れるよ
・あと1プレーやります。最後です
審判の声がスタンドやテレビを通じて観客に聞こえてくるのは、
見る側にとっても判りやすく親切ではあります。
特にラグビーやアメフトのようにルールが複雑なうえ、
大勢の選手が密集して外から見にくいという特異性のあるスポーツでは有効だと考えられます。
観客を重視しているという観点からするととても良い手法ではないでしょうか。
傍から見ていても、審判と選手が何を話しているのか興味はあります。
そういう欲求も解決されます。
でも、国際試合などでは観客もバイリンガルにならないと通じないという難点もあります。
特に高校選手権での審判から選手への呼びかけが多いように思えましたが、
ラグビーとサッカーの普及度の違いという背景も見逃せないのかもしれません。
最近ではサッカーは幼稚園児でもしっかりしたコーチの下で始めているケースは少なくありません。
ラグビーの開始年齢の多くは高校入学後の15歳のようです。
選手経歴の差、ルール理解度の差、体力の差などから
審判員の指示がより必要なのではないでしょうか?
またラグビーではビデオ判定も取り入れています。
「テレビマッチ・オフィシャル」と呼ぶそうですが、
トライに関わるような重大な局面ではVTRを担当者に見させて意見を聞くそうです。
あの「伝統」の名のもとにガチガチに前近代的だった大相撲でも、
ずいぶん前からビデオ判定の導入をしています。
(余談ですが、大相撲の立行司は短刀を差しています。
ミスジャッジをした時に切腹する覚悟を表しているそうです。大相撲の文化なのでしょうね)
ただVTR判定には大きなデメリットがあることも考えなくてはなりません。
VTR判定は当然ながら試合を中断することになります。
サッカーの大きな魅力である試合の連続性を損なってしまいます。難しい問題です。
しかし、八百長問題が世界的な広がりをみせているサッカー界でも、
判定の透明性を高めるためにこれらのことは一考の余地があるように思われます。
サッカーの試合では選手が審判に激しく抗議したり、
相手の反則を誇張するためことさら大袈裟に痛がり、転げ回るシーンをしばしば見かけます。
ラグビーでは(見た試合が少ないからかもしれませんが)そのような場面を見かけません。
ラグビーの選手はサッカーの選手より紳士的で、かつ審判をよりリスペクトしているのかと思いました。
ラグビーのルールでは審判に抗議したら即ペナルティ・キックを取られるそうです。
それでは言いたくても言えないですね。
前出の「できる男は空気が読める」の中に、『サッカーは大衆がする紳士のスポーツ、
ラグビーは紳士がする大衆のスポーツ』という言葉が紹介されています。
どちらも紳士であることが要求されているようです。
このように見てくると、サッカーとラグビーの違いは随分あります。
どちらが良いとか悪いとかではなく、それぞれの競技の特徴として見るとよいのではないでしょうか。
もう一つ余談ですが、皆さんの周りにも「自分の好き嫌いを、
そのまま世の中の善悪の判断基準」として考える人がいらっしゃるのではないですか?
自分が嫌いなものは悪いことだと思い込んでいる人は結構いると思います。
一例として、クラシック音楽が好きな友人が「ロックや演歌は音楽ではない。
悪いものだ」と言っていたことがあります。
自分が嫌いでも、必ずしも世の中の悪とは言い切れません。
また、Jリーグが始まった頃(1993年)、「野球とサッカーのどちらが面白いか?」
という不毛の議論をずいぶん耳にしました。
好きか嫌いかは個人の好みの問題であり、面白さを比較対照したところで何も意味がありません。
どちらが優秀で面白いかなど絶対に決まることはないでしょう。
私の個人的な好みを言えば、やはり華麗な個人技が見られ、
チームの戦術が比較的明確なサッカーが好きだということです。
あくまで「好き」なのであり、「正しい」かどうかは判じかねます。
話を「異業種交流会」に戻しますが、
スポーツ界においても異なる競技団体が垣根を越えて各々が抱えている問題点や
その解決策を論じ合い、共有することは意義深い事に思えます。
ある団体が行った問題解決策が、他団体の問題解決のヒントになることは大いにありえます。
トップ・レベル、実務者レベルでそれぞれ気楽なサロンのような対話の場をもてるとよいのではないでしょうか?
いずれにしても、それぞれの競技をする選手や観客が、
よりそのスポーツを楽しめるようになることが最重要なことです。
2013.5.6
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